どうも、ほんまぐろです。
2022年11月11日に公開された新海誠監督の最新作「すずめの戸締まり」
こちらを視聴して参りましたので、その感想を書いていきたいと思います。
ネタバレ全開となりますので、未視聴の方はご注意ください。
個人的には非常に満足できる作品でした。
が、決定的に受け付けられない人や不評を講じる人も絶対出るだろうなとも思いました。
作品全体を通じて
主人公である鈴芽ちゃんが青年・草太と出会い、世界の秘密を知り、それらから大切なものを守る為に立ち向かって行く…。
という王道的な流れと、我々日本人が向き合わなければならない問題(詳しくは後述)をうまくリンクさせ一つの作品に仕上げていたと思います。
新開監督の作品って恋愛観だったり設定だったり性癖だったり色々と個性の強い所があるんですが、今作はストーリーもキャラの心情も非常に分かりやすく、すっきりしていたと思います。
そして新海監督の真骨頂でもある幻想的な風景は作品を積み重ねるごとに進化していき、今作で一つの完成形に達したように思えます。
「後ろ戸」から見える常世の風景は幻想的で、そして懐かしく、どこか寂しくて恐ろしい場所にも見える。
新海監督はそういう「有り得そうだけど有り得ない風景」を描くことに関しては一級品だと思います。
そしてもう一つの真骨頂はやはり特殊な性癖。
今回もとにかく「可愛い女子高生を描くんだ!!」という並々ならぬ情熱を通り越した執念が随所に感じ取られました。
椅子にキスする女子高生
女子高生の水に濡れた靴下越しのくるぶし
椅子になって女子高生に踏まれたり座られたりする
うん
まぁ、刺さる人には刺さるんじゃないでしょうか。
刺さったから挙げられる?すみません、よく聞こえません。
今作は九州をスタートとし、宮城県に至るまでの道程を記したロードムービーとしての一面もあります。
その旅路を通じた鈴芽という女性主人公の成長物語である為、作品には幅広い世代の女性達が登場します。
育ての親である環さんや名古屋でスナックを営んでいるママやその従業員etc…
多くの女性達が活躍する姿は、女性進出が高らかに掲げられた現代社会を強く表現したように思えました。
そんな旅路を彩る懐かしい名曲の数々も素敵でした。
「夢の中へ」や「けんかをやめて」、「バレンタインキッス」等、名曲のオンパレード。
中でもトップバッターを飾った「ルージュの伝言」は衝撃でした。
これからの世代の人はこの曲を聞くと「魔女の宅急便のアレだ!」じゃなくて「すずめの戸締まりのアレだ!」ってなるんだろうなって考えるとちょっと切ない…。
ただこのロードムービーとしての側面、個人的には駆け足気味だったと感じましたが、逆にいえば2時間という短い尺の中でそこまで表現した事を素直に賞賛したいと思います。
キャラクターに関して
【鈴芽】
今作の主人公。
個人的に新海監督作品に登場する主要女性の中ではトップクラスに良いキャラクターだったと思います。
優しさや誠実さ・溌剌さを兼ね備えた明るい女の子で、観ていて全く不快感がなかった。
ただ、「死ぬのは怖くない。ただ運が悪かっただけ」という女子高生とは思えない達観した価値観がちょっと恐ろしかった気もします。(そうなったのにはもちろん理由がある訳ですが、それは後述)
そして鈴芽役の原菜乃花さんの声が本当に綺麗だった。
【草太】
古来より出現する「後ろ戸」を閉じる「閉じ師」としての役割を担った青年。ヒロイン?
「仕事中に女子高生に話しかけたら余計な仕事増やされた上に椅子にされる」というとばっちりを受けて尚前向きに行動ができる素敵な青年です。
正直椅子にされた後に「要石が必要」という話が出た辺りで「要石にされるんだろうな」という気はビンビンに出てました。
自己犠牲は物語的によくある構図ですが、「やっぱり死にたくない」「生きたい」とハッキリと思えるのが非常に人間味があって良かったと思います。ナディアのフェイトを思い出す。
劇中では大半が椅子の姿でしたが、椅子ならではのアクションシーンは非常に疾走感があって素晴らしかったです。椅子ならではのアクションシーンなんてジャッキーの映画くらいでしか見たことないですが。
【芹沢】
今作における癒し枠。
神木隆之介とかいう宮崎駿・細田守・新海誠から同時に愛される神の子。
宮崎・細田・新海「推しの子」
チャラい見た目と面倒見のいい性格のギャップがいい味出してますね。
恐らく草太を差し置いて絶大な女性人気を得る事でしょう。
【環さん】
亡くなった鈴芽の母の妹で鈴芽の育ての親。
深津絵里さんが声を当てていると知ってびっくりしました。
正直サービスエリアでの鈴芽との喧嘩シーンは発言内容が超生々しくて怖かったです…。
歳を取ると、どうしても少年少女よりもそれを見守る大人達の気持ちに同情するようになってしまいます…。
新海監督が言うように「表面的には笑い合いつつもどこかぎこちなく距離感を測る関係」ではありましたが、きっと物語の最後はお互いスッキリと笑い合えている関係になったと思います。
あと超長文ラインは笑った。
【ダイジン】
本作のトリックスター役。
草太に呪いをかけて椅子にしたり行く先々で挑発とも取れる行動を繰り返す等、視聴者を実にイライラさせてくれます。
特に東京の後ろ戸が開いてしまった時のセリフ「また人がいっぱい死ぬね♪」は、演者さんの無邪気で幼い声とのギャップもあり強烈な不快感を催しました。
ただ個人的には非常に可哀想な存在だと思います。
要石として封印の為に自信が封印され続け、やっと解放してくれたと思った恩人からは邪険に扱われる。
本人に悪気がない分見ていて辛い…。
結曲最後もダイジンとサダイジンを犠牲にするしか選択肢がなかったのはやるせなかったです。
ミミズに纏わる設定に関して
今作の鍵となる存在。
後ろ戸より現れるエネルギー体。ライフストリーム的なアレ。
ミミズが地表に落下した時の衝撃が我々にとっての「地震」となります。
そう、恐らく新海監督が最も訴えたかった本作のテーマ。
今作を決定的に受け付けない人が出るであろう原因。
「東日本大震災」です。
作中でやたらと「地震」を強調した辺りから「ん?」と思いましたが、最終目的地が宮城だと聞いて完全に察しました。
思えば監督は「君の名は」の頃から災害を題材に映画を作ってきました。
「君の名は」は隕石落下。
「天気の子」は大雨による洪水や水没。
それらは割と現実離れしている現象なのでまだフィクションとして楽しむ余地は残されていました。
ただ今作では現実の出来事
我々の記憶に最も残っている未曾有の大災害「東日本大震災」がテーマとして掲げられています。
キツい…。
しかも匂わす程度の描写ではありません。
- けたたましく鳴り響く緊急地震速報
- 無機質で不安にさせる大津波警報発令のアナウンス
- 3月11日以降の真っ黒な日記をひたすらにめくるシーン
- 大勢の人がいつものように「行ってきます」と言うシーン
- 幻想的な風景から一転、火の海と瓦礫に包まれる常世のシーン
これらの描写は関東圏で生活し、甚大な被害を受けなかった自分でさえ戦慄し身震いしました。
この題材・描写を受け入れられるかどうかで、本作の評価はハッキリ分かれると思います。
配布された特典の規格書に掲載されていた監督のインタビューにこんな一説がありました。
「3月11日の10日後くらいだったか、東京でも桜が咲いたんですよね。当然といえば当然なんですが、心底驚いた記憶があります。
何があっても日々はこうやって続いていくんだという慰めと同時に、自然はどこまでも冷徹で人間には無関心なんだ、という底知れない怖さも感じました。」
ミミズは意思も感情もない、ただそこに「在るだけ」の存在。
そんな超越的な存在のちょっとした動きで、我々人類の生活は一瞬で消え去ってしまう。
鈴芽は4歳の頃に被災し、母を失いました。
きっとそれからの日常は地獄だったんだろうな、というのが塗りつぶされた日記や幻想的だけど空しく寂しい廃墟、そして前述した達観した人生観なんかにもよく表れています。
「死は怖くない。単に運が悪かっただけ」
日常に「死」が入り込んでいる生活を送らなければ決して浮かばない思考。
小さい女の子にこう思わせてしまう自然災害の怖さ
自然は我々人類に寄り添ってはくれない、とい事を見せつけられた。
これは自分が東日本大震災の影響をモロに受けていない、所謂「外野」の存在だからここまで客観的に語れるんでしょう。
実際に震災を体験した方々の中にはこの映画を見て気分を害された方や当時の記憶を呼び覚まされた方が沢山いらっしゃると思います。
そういった方々がこの映画を受け付けなくなるのもよく分かるし、むしろ受け付ける必要はないんだと思う。
鈴芽の様に、辛い記憶や感情はいつまで経っても辛いままで、きっと完全に癒える事なんてない。
だからこそ、この映画を通じて我々のような外野の人間は少しでも当事者の方々の辛さや悲しさ、ありふれたいつもの「いってきます」を無惨に奪われた衝撃を共有しなければならないと感じました。
閉じ師は後ろ戸を閉めるときに「その場で生活していた人々の事を思う」事で鍵穴を出現させます。
それはきっと我々も同じであるべき。
震災に遭われた人の事を考え、思い、少しでも辛さを共有し
その気持ちを胸にほんの少しでも他者へ優しく出来たら。
きっと鈴芽の最後の「いってきます」のように、日常を生きていく為のほんの僅かな勇気を与えられる。
自分はこの映画からそんなメッセージを受け取った気がします。
軽々しくネタにしてはならない。
でも風化もさせてはならない。
この非常にセンシティブな題材から逃げずに真っ向から向かい合って表現しきった新海誠監督は素直に凄いと思いました。
総評
新海誠監督が「君の名は」で始めた災害を題材とした映画群。
その最終地点として描かれた、我々日本人が避けては通れない、避けて通るべきではない「東日本大震災」
その辛い出来事を、ファンタジー要素と言うフィルターを通したとは言え真正面から描いた衝撃的な内容でした。
内容的に完全に拒絶してしまう人が出てしまうのはしょうがないので、もうちょっと事前にやんわりとでも告知出来ていたら賛否両論にはならなかった気がします。
ただ、それだけでは終わらないのが新海監督の映画の魅力です。
常軌を逸したレベルで美麗な映像、奇跡的なレベルで違和感のないキャスティング、鈴芽とその周囲の人達との心の触れ合い。
様々な感情を味わうことのできる映画だったと思います。
きっと震災の影響はまだまだ我々の心を蝕み続けるはず。
だからこそ、過去の出来事として風化させずに語られ続けていくべき。
そう感じました。(勿論被災した方の気持ちが第一ですが)
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